
100年後の伝統工芸をめざして
強く美しく、しなやかに。食事がもっとおいしくなるジルコニアのカトラリー│ZIKICO
東京都多摩市を拠点に、「ジルコニア」に特化したプロダクトを生み出す株式会社ZIKICO。現在はカトラリーを中心に製品を展開されています。今回ソラミドでは代表取締役の山瀬光紀さんにインタビューし、ジルコニアという材料の魅力やZIKICOの誕生秘話、そしてブランドの今後の展望についてお話をうかがいました。
みなさんは、「ジルコニア」という素材を知っていますか?
「ジルコニア」はセラミックスの一種で、ジルコニウム鉱石を素に作られる磁器の仲間。よく金属の一種だと勘違いされるようなのですが、金属ではありません。

ジルコニアは、
・ダイヤモンド、ルビーに次ぐ硬さ
・金属のようなしなやかさ
・(金属ではないので)アレルギーを起こす心配がない
といった特徴を持ち、人工歯や人工関節などにも使用される優れた材料なのです。
東京都多摩市にある株式会社ZIKICOは、そんな「ジルコニア」に特化したブランド。現在はカトラリーを中心にプロダクトを展開されています。

ZIKICOさんのジルコニア製品は、繊細な曲線を描くフォルムと、ほんのりと光を通すマットな乳白色がどれも美しいのです。丈夫でキズがつかずお手入れも楽ちんで、ノンアレルゲン。さらには金属臭がないためお料理の味を邪魔しないのも魅力的なポイントです。
今回ソラミドでは、株式会社ZIKICO代表取締役の山瀬光紀さんにインタビューし、ジルコニアとの出会いや現在のプロダクトが生まれるまでの道のり、そして今後の展望についてお話を聞きました。

ジルコニアの美しさ、強さ、しなやかさに惹かれて
もともと、山瀬さんのお父さまはプラスチック加工会社を経営されていました。そこで山瀬さんは会社を継ぐための準備として、大学卒業後にドイツの射出成型機メーカーに入社。
ドイツで働いていたころ、会社の研究室に日本のジルコニア材料メーカーが訪ねてきたそうです。この出会いが、山瀬さんがジルコニアへと惹かれるきっかけになったのでした。
「まず、ジルコニアの美しさに惹かれました。ジルコニアは磨くと宝石のように光ります。ほんのりと光を通し、どこか柔らかい印象を与えてくれるのも、すごくきれいだと興味を持ったんです」

「また、そのときにジルコニアで作ったピンセットを見せてもらい、丈夫さにも驚きました。通常、セラミックスでピンセットを作ると折れてしまうんですよね。でもジルコニアは金属のようにしなやかに曲がり、それでいて丈夫なので、折れないんです。その体験をきっかけに、ジルコニアをもっと日用品に取り入れられたら面白いのでは、と考えました」
ジルコニアはそれまであまり研究されてきておらず、未知の可能性を秘めた材料でした。というのも、日用品として使うぶんには硬さも耐熱性も十分すぎるほどのレベルを持ちながら、工業用途としてはさらに硬いダイヤモンドや、もっと熱に強いアルミナといった材料があることから、活躍の場が限られていたのです。
だからこそ、「先駆者として新しいことができるのでは」と、山瀬さんは意気込みました。

ITデバイス市場の変化を背景にプラスチック加工業の生き残りが難しくなるなか、お父さまの会社でも何か新しいことを始める必要があると考えていた山瀬さん。
2005年に帰国し、お父さまの会社へと入社すると、2007年には念願のジルコニア研究部門を立ち上げます。
その後はジルコニアプロダクトの研究開発を重ね、2018年にはジルコニアの研究部門だけを「株式会社ZIKICO」として新設分割。以来、ジルコニア事業に専念されています。
ジルコニアが、食事をもっとおいしくする
ジルコニアの研究を進め、日用品への活用法を模索するなかで、最初は時計やアクセサリーを作ることも考えたそうです。しかし、生産コストの問題などから量産性の実現が難しく、別の方法を探すことに。



そこで思い出したのが、ドイツでのこんな経験だったといいます。
「ドイツにいたころ、日本料理を作ってほしいと頼まれたことがあり、お蕎麦を振る舞うことにしたんです。そこで日本から取り寄せたかつお節で出汁をとってつゆを作ったのですが、ぜんぜん出汁が出なくて……。ドイツの水は硬水でミネラルが多いので、別の物質が溶け出す余地がないんですよね」
「そんな薄味の出汁を金属のスプーンで味見したら、味を感じない。あれ? と思い、お皿から直接舐めてみると、ほんのりと味を感じられました。そのとき、金属のスプーンが味を消してしまうんだということに気付かされたんです。その記憶がずっと残っていたので、ジルコニアでカトラリーを作れば、もっと食事をおいしく感じられるようになるのではと考えました」



缶詰食品や、金属に触れた食品から「金属のにおい」を感じたことがある人もいるのではないでしょうか。これは、金属が食品に触れたときに溶出する「金属イオン」によって引き起こされると考えられているそうです。
ジルコニアなら磁器の一種なので、金属臭を発生させる心配もなく、もっとおいしく味わえるようになるのでは──そんな思いを胸に、現在のZIKICOへとつながるジルコニア製カトラリーの開発がスタートしました。
あえて磨かないという選択
ジルコニア研究開発部門を立ち上げてからおよそ10年。
ジルコニアで、何をどうやって作るか地道に試行錯誤を重ねた結果、スープスプーンが2017年度グッドデザイン賞を受賞しました。現在ソラミドでもお取り扱いしている「SUMU」シリーズの、前身となるモデルです。

ZIKICOが注目され始め、ジルコニアという材料の可能性も少しずつ知られていくなか、これからさらに多くの人へとプロダクトを広めていくためにも、クオリティや生産方法を見直すタイミングがやってきました。そこで、手工業デザイナーで「ててて協働組合」の主催者の一人としても知られる大治将典さんに、プロダクトデザインをお願いすることになったそうです。
「研究開発の成果によって技術力が上がり、できることが増えていくと、どうしても作り手目線であれもこれもと技術を盛り込みたくなってしまって……。結果的に製造コストが上がり、日用品としては現実味のない価格のプロダクトになってしまうんですよね。ジルコニアの成形技術がある程度高いレベルに達したからこそ、今度は余計なものを削ぎ落として洗練させていくフェーズに入ったということで、手工業デザイナーとして活躍されている大治将典さんにお声掛けさせてもらいました」
ちなみに、現在のZIKICOのカトラリーの魅力のひとつでもあるマットでなめらかな質感も、大治さんの声によって生まれたものなのだそう。

「ジルコニアは宝飾品関係に使われることが主流だったことから、作り手としては磨くのが当たり前だという考えを持っていました。ですが、ジルコニアはものすごく硬いためダイヤモンドを使わなければ磨くことができず、スプーンひとつ磨き上げるのに丸一日かかります。磨くという工程にかかる手間や時間も、価格を上げてしまう大きな要因のひとつになっていました」
「そんな課題を抱えていたなかで大治さんにデザインをお願いしたところ、『磨いちゃだめだ』と言われたんです。ジルコニアの存在を知らない人にもどんな素材なのか直感的に感じてもらえるよう、磁器らしい質感でなければならない、と。我々としては“磨かないジルコニア”という考えをまったく持っていなかったので、目の覚めるような思いでした」
そして、磨かずに美しさを引き出すためのさらなる技術開発を行い、現在のマットでなめらかな質感が誕生しました。

ZIKICOの製品は、多摩市にある事務所ビル内に設けられた工房で作られています。
「機械でしかできないこと、手にしかできないことがそれぞれあるのだから、両方の良さを混ぜて作っていく必要があると考えています」と、山瀬さん。


「たとえば、ジルコニアを成形するには大気圧の1000倍もの圧力で金型に押し込む必要があるため、手作業では不可能です。一方で、金型から取り出す作業やバリ取りなど、手作業でなければできない仕事もあります」



「ZIKICO」を未来の伝統工芸に
安価なものが簡単に手に入るカトラリー市場で、ZIKICOのよさを伝えていくために。ジルコニアの機能性、洗練されたデザイン……など、ZIKICOのカトラリーが持つ魅力をより多くの人たちへと発信するべく、山瀬さんは試行錯誤を続けています。

「一般的なカトラリーの価格帯は、だいたいが1,000円未満。ジルコニアは材料費が高価なため、我々はそこまで安いものは作れません。それでもZIKICOを使うメリットを感じてもらうには、やはりジルコニアの機能的なところをうまく伝えていく必要があると考えています」
「とはいえ機能面だけをアピールするのではもったいないですし、現状では機能とデザインの両面を認めてくれた方が購入してくださっているという実感があります。ZIKICOの魅力をバランスよくアピールしていくための発信方法は、今も模索しているところです」


「カトラリーといえばステンレスが主流で、少し高級なものだと銀。それ以外では木製のものがありますよね。たとえばカトラリーの購入を考えているときにインターネットでおすすめを検索すると、ステンレス製、銀製、木製のカテゴリでしか紹介されないんです。まずはカトラリーの材質の選択肢として、もっとジルコニアを浸透させていけたらと思います」
そして、山瀬さんが掲げる最終的な目標は、「ジルコニア製品を100年後の伝統工芸にすること」だといいます。
「日本各地に伝わる焼きものと同じように、ジルコニアが人々の生活に根付いていけばいいですよね。現在ZIKICOではカトラリーをメインに展開していますが、これからさらに幅広いシーンへとジルコニアの良さを取り入れてもらえるよう、様々なプロダクトを考えていきたいと思っています。
そしていずれは、『絆創膏といえばバンドエイド』『ツナ缶といえばシーチキン』のような感じで、ジルコニア製カトラリーの代名詞として、“ZIKICO”の名前を使ってもらえるようになればうれしいです」

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