
伝統と現代を織り交ぜ、模索し続ける形
「土」を「焼成」することに惹かれて陶芸の道へ
埼玉県秩父市の「gotica陶芸工房」。今回は、こちらで作家活動をされているミカミヒロシさんのインタビューをお届けします。ミカミさんは陶芸家としてさまざまな作品を制作されていて、土の素朴な質感に釉薬の彩りをのせた器や陶画、工房で定期的に開催されている「明かりの家」ワークショップが人気です。ミカミさんの作家人生を振り返りながら、焼き物との出会いや魅力について伺いました。
現在は陶芸家として活動されているミカミさんですが、もともとは「絵を描きたい」と美術の道へ進むことになったそう。
高校生のころには「美術大学に行って好きな絵を描いて、もしかしたら卒業後は美術の先生になって…」と想像していたのだとか。しかし美術大学に落ちてしまい、その後はアルバイトをしながら絵を描いてときどき個展を開いたり、テント劇団の舞台美術を担当しながら全国をまわったり、彫刻家さんの助手をしながら過ごすことに。
でも、美術大学へ進まなかったからこそ、ミカミさんはその後陶芸に出会うことになりました。

「日本も面白い」と気付かされた
1つ目の転機になったのは、20代半ばのころにヨーロッパを訪れたこと。1ヶ月ほどかけて、いくつかの国をまわりました。スイスの美術学校への留学も視野に入れ、下見も兼ねて訪れたのだとか。
しかし、さまざまな国を訪れて本場の西洋絵画を見続けるうちに「あれ、日本の身の回りにも面白いものがいっぱいあるな」と気がついたそうです。
「一ヶ月足らずの期間ですが、ヨーロッパという場所に埋没したときに初めて『日本も面白いな』と感じたんです。自分が生まれ育った地から遠く離れた場所に来たことで、対照的に日本の良さに気付かされたというか」

それでミカミさんはスイス留学をやめて、「日本の伝統的な美術をやっていきたい」と考えるようになったのです。
このときはまだ、「陶芸か漆か木工か…」と、具体的にどの分野に進むかは決めていなかったそう。
その後訪れた2度目の転機が、ミカミさんと陶芸を引き合わせることになります。
「焼くことでまったく違う存在になる」という魅力
漠然と「日本の美術をやっていきたい」と考えていたころ、ミカミさんはヒント探しも兼ねて再びヨーロッパを訪れます。
すると、そのとき訪れたフランスの田舎町で、偶然日本の美術大学の先生に出会いました。
その場で話をできたのは短い時間だったそうですが、日本に戻ってから少し経ったころ、その先生から「ミカミくんには陶芸が向いているかもしれないよ」という言葉が。
「何を根拠に言ったのかは聞いていないから、わからないんだけどね」とミカミさんは笑いますが、このときミカミさんの中で、あることが「つながった」といいます。
「彫刻家の遠藤利克氏の助手を務めていたころ、大きな木彫を最後に軽く燃すことで完成させる作品を目にしたときに、“焼くことで違う存在になる”というのにちょっと感動したんです。木を焼くと、炭化して焦げて、別のものになる。『陶芸が向いているかも』と言われたときに、『焼き物か』と。ボソボソだったり、ドロドロしている“土”っていう存在も、乾燥させて焼くと硬くなって、まったく違うものになるなと、僕の中でつながったんです」

そして、ミカミさんは本格的に陶芸の道へ進み始めることになったのでした。
器を作れなかった時期に出会った「祠」
本格的に陶芸の勉強をすることにしたミカミさんは、島根県の出西窯で修行を始めます。
しかしそれまで彫刻家の助手として、とことん「彫刻としての造形」を教えこまれてきたというミカミさんは、ろくろを使って形作られる「器ならではの形」に当初は違和感を覚えてしまいます。それでしばらくは、器を作ることができなくなってしまったそうです。
「焼き物をやりたいけれど、器が作れない」
そんな葛藤を抱えながら修行を続けていたとき、『
「佐久間先生は、掌に収まるほどの小さなテラコッタの合掌童子を何百体も作ってい
悶々とした修行生活を送るなか、ミカミさんは「これも陶芸なんだ!」と希望を覚えたそうです。
その後、地元秩父へ帰ってきたときに出会ったのが「祠(ほこら)」でした。
秩父の古道を歩いていると、集落の境や辻などあちこちに石祠を見

そうして、板状の粘土を貼り合わせる「たたら」と呼ばれる製法で祠をモチーフにした作品を制作するように。
しばらくすると「焼き物の展覧会をやってほしい」と声がかかり、ちょうどクリスマス時期だったこともあって同じ「たたら」製法で「おうち」を作るようにもなりました。
これが、現在ワークショップでも大人気の「明かりの家」の元になっています。



伝統陶芸と現代陶芸を織り交ぜて
「祠」や「明かりの家」などミカミさん独自の焼き物の形を見つけながらも、「焼き物といえば器」といった思いもどこか持ち続けていたというミカミさん。
「秩父で工房を開いて5、6年経ったころから、僕にとっての器ってどういうものなのか、考えるようになりました」

改めて器作りを学ぶことを決め、2013年からは陶芸家・村木雄児氏の薪窯による窯焚きにも参加。
そこで伝統的な陶芸を学びながら、現代陶芸を織り交ぜたミカミさんならではの器の形を模索し続けて

土の生地と釉薬の境目が美しい「サバンナ」シリーズの器。 境界が地平線のように見えることがシリーズ名の由来。
美術家として培った経験を焼き物づくりに活かしながら、独自の世界を切り拓き続けるミカミさん。その生き方も感性も、造形に対する一途な姿勢も、まさに「芸術家」といった印象です。
それでいて、工房を尋ねるとあたたかく迎えてくださり、優しい笑顔を浮かべながら柔らかい声色でお話してくださる、とってもチャーミングなお人柄。
そんなミカミさんのもつ雰囲気が、作品たちにも表れているようでした。


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(文/写真:笹沼杏佳)

gotica陶芸工房さん
作家ミカミヒロシ 1962年、埼玉県秩父市生まれ。絵画や彫刻を経て陶芸を志す。島根県・出西窯にて修行したのち、2001年に秩父・荒川のほとりに窯を開く。山、川、風、空……空気から伝わるインスピレーションを頼りに土と向き合う日々。心があたたかくなるような作品を大切に生み出している。 作家ソラミドインタビュー http://www.soratomidori.jp/4581/