
越前浜ーみんなの想い、その先にある未来
新潟県は、おいしいお米や地酒、野菜など、食の恵みに満ちています。それは、日本海の海の幸や、山々から流れ出るおいしい水、はっきりとした四季の移ろい、そして大切に野菜やお米を育てる農家さんのおかげ。
地元の方々が手塩にかけて作った食材を、新鮮なまま、日常の暮らしの中で味わえることの豊かさ。新潟という土地の魅力はそんなところにあるのかもしれません。

今回はそんな新潟県の中でも、近年移住者の増えている、新潟市西蒲区、越前浜地区にスポットを当ててみましょう。
越前浜地区は、新潟市の西寄り、美しい海岸砂丘の風景の中にありつつも背後には小高い山々、更に新潟中心街まで車で30分というアクセスの良さが自慢。まさにいいとこ取りのこの地は、近年移住者が増えつつある、現代では希少な地域となっています。

越前浜
長年勤めていた東京の証券会社を退職し、家族とともに越前浜に移り住みワイナリーとレストランをオープンさせた、フェルミエ(https://fermier.jp)の本多孝さんもそんなひとり。この土地を愛し育てたブドウそのものの魅力、あとはなるべく手を加えずナチュラルにというシンプルなワインづくりを目指している彼の作り出すワインは、海と砂の広がるこの土地そのものの持つ雰囲気を感じます。
本多さんが最初のワインを作ってから、10年余り。今ではこの越前浜地区は、フェルミエの先輩に当たる有名なカーブドッチを始めとした他の4人のワイン生産者とともに、「新潟ワインコースト」(http://www.docci.com/winecoast/)という新しいワイン産地として、確実に評価を高めています。
また、この地に住まう芸術家やカフェが集う浜メグリ(https://www.facebook.com/hamameguri/)というイベントも春と秋に行われており、先ほどの新潟ワインコーストはもちろん、越前浜地区が一体となって繰り広げられる様々な催しを体験することができます。地図片手にふらりふらりと気になるお店を覗きながら遠浅の砂浜を望む路地をのんびりとそぞろ歩けば、この自然豊かな海辺の集落ならではの明るくゆったりとした雰囲気に、なぜそんなにまでこの地域が移住者にとって魅力的なのかを見い出すことができるかもしれません。
新潟県の移住促進プログラムである「HAPPYターン」の第一号である越前浜地区。この地域は戦後、付近に広がる砂浜を開発して造られた農村地域ですが、近年は空き家や耕作放棄地が広がるなど、危機的な状況に。それを打破するべく地域の人々が動き出したのが始まりだそうです。そして、地域の危機意識から生まれたこの運動を受けて始まったのが、「HAPPYターン」プログラム。空き家の改築や引っ越し費用などを補助するというこの試みをきっかけに、多くの人がこの地に関心を持ち、その魅力に触れた結果、越前浜地区には県内外からの移住者が増え続けたそうです。
その甲斐もあり、最初の活動を始めてから10年余りたった今では人口の17%が移住者とその子供となっていて、統廃合が検討されていた小学校の児童数の減少にも歯止めがかかったとのこと。
いま多くの自治体が抱える、地方都市での人口減少問題。この状況の中で、目に見える形で成果を上げ始めている同地区の試みは、同じような悩みに直面する日本の多くの地方にも心強い成功例と言えるでしょう。
日々の生活を営む上で、やはり便利な生活をある程度は享受したい。でも、行きすぎた便利さはいらない。多くの人がそう感じ始めているのではないでしょうか。この越前浜地区のように、都市の便利な生活も手の届くところにおきつつ、生活の基盤は自然を感じることのできる地域に持つ…このような絶妙な距離感に、これからの地方移住者・定住者増加の鍵があるように思います。
そして、仮に何かを成し遂げたいと思い行動に移しても、その成果はすぐには現れず、10年以上の長い年月をかけてようやく見えてくるものなのかもしれません。例えそうだとしても、信じ続け、歩み続けることこそが大事なのだと気付かされます。ワインづくりも、まちづくりも、みな同じ…自分たちの歩む先に、光があると信じて。
文・Kalipe