ソラミドストア

福島県・会津若松市

株式会社 関美工堂 関昌邦

あたらしい器のかたち

木と漆を大切に、日々に寄りそう漆器たちを

1946年創業の関美工堂は、会津若松の表彰記念品メーカー。三代目の関昌邦さんは、地元会津塗りの技術を活かした漆器ブランドも展開されています。会社を継いでブランドを立ち上げるまでの経緯や、身近に使える漆器を提案することへの想いについて伺いました。

表彰楯メーカーのパイオニア

関美工堂は、老舗の表彰楯メーカー。

1946年に、関さんのおじいさまが立ち上げられました。

当時は、表彰記念品といえば優勝カップやメダルくらいしかなかった時代。

そこで、地元会津の技術を活用して新しい記念品を作れないかと模索した結果、会津塗りの表彰楯が生まれたそうです。

いわば関美工堂は、表彰楯メーカーのパイオニア。

ここでつくられヒットしたことで、楯は記念品の定番になり全国へと広がっていきました。

 

関さんは次男だったこともあり、もともと跡を継がれる予定はなく、東京で宇宙関係のお仕事をされていたそう。

JAXAで人工衛星の開発に携わっていたこともあるのだとか。

 

しかし、あるときお父さまが倒れられ、生まれ育った関美工堂へと戻ることになります。

「子どものころの遊び場でもあった工場で、昔から会社が元気だったころを見てきたから、このままじりじりと下がっていってしまっては嫌だなという思いがありました。兄は継がないことを決めていたので、もちろん迷いもありましたが、自分に役立てることがあればと私が戻ることになったんです。親父は『戻ってこい』なんていう人じゃないので、戻ったのは私の意志です」

新しい漆器を提案する3つのブランド

関さんが会津に戻ったころは、漆器業界のピークも過ぎ、全体で売上が落ち続けていたそう。

業界としてもっとできることがあるのではという想いのもと、漆器組合の青年部など若手を中心に集まって、漆器界を盛り上げるための方法を模索していました。

 

そして立ち上げたのが、『BITOWA(ビトワ)』というブランド。

会津塗の伝統技術と、モダンなデザインが融合。

新しい会津塗のかたちを示し、業界に新風をもたらしました。

月刊フローリスト10月号(撮影:藤本賢一 製作:浜裕子)

さらに、アウトドア用の漆器を展開するブランド『NODATE(ノダテ)』もスタート。

天然素材の木や漆を使った道具があれば、自然をもっと贅沢に味わえます。

茶道では、外で楽しむお茶会を“野点(のだて)”と呼ぶことから、このブランド名になりました。

食器や重箱、ちゃぶ台などのあらゆるアイテムを扱っています。

 

なかでも人気なのが、『NODATE mug』。

木製の漆塗りマグで、軽くて丈夫。熱を伝えにくいため、熱いものを注いでも持ちやすいんです。

漆の器は使うごとに味わいが増すので、経年変化も楽しめます。

漆器というと、高級品でなかなか手に取れないものだと思われがち。

ですが、NODATEのアイテムはもっと身近に漆塗りの器を取り入れて、外に持ち出してほしいという想いのもと生まれています。

NODATE mugも、アウトドアでどんどん使い込める漆器なのです。

 

もうひとつのブランド『urushiol(ウルシオル)』では、飯椀など、普段の暮らしのなかで使う器を新しく提案しています。

現在日本で流通している漆の99%は中国産らしいのですが、こちらで使われる漆は国産のものです。

漆器をもっと身近なものに

「それぞれターゲットは違いますが、結果として横に並んでも違和感のない3つのブランドになりました」

と、関さん。

 

「人と同じことをしたくないというか、人がしないことをしたい。子どものころから、学校の教室でも流行っているおもちゃに乗っかるのではなく、どちらかというと流行を作りたい、という気持ちが強かったです」

そんな関さんの想いが表れる3つのブランド。

それぞれに違った個性がありながら、伝統の会津塗りを大切に、現代の生活に寄りそう新しい器を提案するという軸の部分は共通しています。

 

変化しながら、変わらない本質を守り続ける

近年、工業化が進んで、地域の伝統産業においても生産効率が重視されることが主流になってきました。

漆器も例外ではなく、プラスチックに合成塗料を塗った“漆器風”の製品が数多く流通しています。

もちろん、漆器風の器はリーズナブルな価格で手軽に使えるうえに、木と漆でできた器と見た目の区別がほとんどつかないなど、現代の生活にマッチする良い面があります。

しかし、工業化によって伝統が失われてしまう恐れがあるのもまた事実です。

地域で育まれてきた技術を受け継いでいくことを、これからも大切にしたい。

関さんは、職人の手によって木と漆でつくられる会津塗りの器を、ときには形を変えながらも守り続けているのです。

 

「大切にしたいのは、地域の色というか、引き継がれてきたもの。“変化こそが、変わらないものの本質を守る”ことにもなるので、現代の暮らしで身近に取り入れられるものに形を変えながらも、本当の木と漆を使い続けていきたいですね。そして、じつは漆器ってとっつきにくいものではないんだ、ということをわかってもらえたらうれしいです」

 

NODATE mugをはじめ、関さんが携わるブランドの漆器たちは実際に広く支持を集め、多くの人たちに使われています。

年齢も性別も関係なく、お年寄りから流行に敏感な若者まで、幅広い層に浸透しているそうです。

軽くて壊れにくく、抗菌性にも優れた漆の器。

ぜひ、普段からあらゆるシーンに取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

<聞き手:松橋京子/文:笹沼杏佳>