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海洋ゴミが生まれ変わる

プラスチックを伝統工芸に。価値を高め、“もう手放されないもの”をつくる│buøy(ブイ)・林光邦さん

海洋プラスチックを再利用し、雑貨などのプロダクトを生み出すブランド『buøy(ブイ)』。buøyのプロダクトはさまざまな色が溶け合ったような美しい色が特徴的。模様の現れ方がひとつひとつ違って、見ていて飽きません。今回は、buøyを展開する株式会社テクノラボの代表取締役・林光邦さんにお話を伺い、ブランドに込める思いや今後の展望を聞きました。


海洋ゴミに意識を向けてもらうための目印になれたら

──buøyはどんな思いで生まれたブランドなのでしょうか?

buøyは、「捨てられたプラスチックから捨てられないプロダクトを作る」というコンセプトのもと、海洋ゴミを美しい製品へと生まれ変わらせています。

buøyを展開する株式会社テクノラボはプロダクトデザインの会社で、プラスチック素材を用いた製品開発を得意としてきました。そういった背景もあって、プラスチックという素材には我々も愛着を持っています。

それでもやはり海洋ゴミ問題と向き合ったときに、これまで自分たちが社会のためになると思ってやってきたことの在り方を見直すきっかけができました。特に、海岸でゴミを拾う人たちがすごく疲弊しているという問題なども目の当たりにして。

海洋ゴミとして流出しているプラスチックはおそらく1000万トンを超えているだろうと言われています。そのうちの8割がアジアから流出しているんです。そしてその多くは、海流の関係で日本の、特に日本海側に打ち上げられます。

私たちにとってプラスチックは、自分たちが生み出した子どもみたいなものなんです。そこで捨てられてしまったプラスチックを拾って綺麗にして、また次の場所へ送り出すということがしたくて、buøyの事業を始めました。

──buøyという名前にはどんな思いが込められているんですか?

ブイは、英語で「浮き」という意味です。浮きというのは、水面に浮かぶ目印のこと。buøyの「o」のところにスラッシュ入れているのは、浮きのマークを表しているんです。

日本海側ではトン単位で大量のプラスチックゴミが拾われていますが、そのことは、都市部の人たちにはなかなか知られていません。そこで、街にbuøyの商品が並んで、「きれいだな」と手にとってもらった人に、じつはこれだけのゴミが漂着しているんだと知ってもらうきっかけを届ける。そんな目印になれたらと思っています。

──大切にしていることを教えてください。

量産品だったプラスチックを、美しい伝統工芸品として生まれ変わらせたいと考えています。それでプラスチックというものに対する目線を変えられたら。

プラスチックの製品は「安く」て、なおかつ捨てても「取り換えが利く」から、安易に捨てられてしまっています。

だから我々は、それぞれ模様や形が違っていて、ひとつとして同じものがないプロダクトを作れたら、と。プラスチックが伝統工芸品に使われるイメージはなかったと思いますが、これからは長く大切に使える、一点物のプラスチック工芸品があってもいいんじゃないかと思うんです。

──buøyのプロダクトは本当にきれいな色が特徴的です。模様の現れ方がひとつひとつ違って、見ていて飽きません。

色を足したりしているわけではなく、海洋プラスチックの色がそのまま現れた色です。材料としても、コーティングフィルム以外は海洋ゴミしか使っていません。だからbuøyのプロダクトの重さが、ほぼそのままゴミの重さとも言えます。手にとってもらったとき、これだけのゴミが落ちていたんだ、と少し思いを巡らせてもらえたらと思います。

──海洋ゴミを材料にするということは、さまざまな種類のプラスチックが混ざっているということですよね。技術的な苦労はありませんでしたか?

日常生活では十種類以上のプラスチックが使い分けられています。それぞれ特性が少しずつ異なっていて、熱を加えたとき柔らかくなる具合も違います。そのため異なる種類のプラスチックを混ぜて同時に成形できるようにするには、かなりのコツとノウハウが必要でした。それでも、プラスチックと向き合い続けてきた経験を活かし、美しいプロダクトに生まれ変わらせる技術を誕生させることができました。

さまざまなプラスチック素材の色が混ざった成形板を作った後は、一品ずつ手作業で成形しています。同じに作ろうとしても微妙に異なる仕上がりになるため、「工芸」と呼べる製品を作ることができるようになりました。

buøyのプロダクトが生まれなくなることがゴール

──材料となる海洋ゴミは、どのように手に入れているのでしょうか。

当初は自分たちで集めていた時期もあったのですが、現在は海洋ゴミに困っている地方自治体さんと連携して、材料として買い取っています。

海洋ゴミが漂着するのは、過疎化している地域が多いんです。そこでただ拾って燃やすだけって、とても大変なこと。我々は、そうやって海洋ゴミの漂着に悩む方たちを支えたいなと。

ゴミを拾ってくださっている方たちも、自分が拾ったゴミが形を変えて生まれ変わると愛着が湧いてくるみたいで。ただ捨てるだけとは違って、前向きで、ちょっとうれしい気持ちになれるといった声をいただいています。地域のボランティアの方には最安値でプロダクトを提供しているので、ゆくゆくはその地域が好きなように販売できる仕組みも作っていきたいと考えているところです。

感覚的な印象ではあるのですが、ゴミの色や種類には地域ごとに違いがあったりして。場所の関係で、流れ着きやすいものにある程度の傾向が現れたりするのだと思います。場所によってはものすごく鮮やかな色だったり、深みを感じる味わいある色だったり。

──地域ごとに特色が現れるなんて面白いですね。

長い年月をかけて流れてきたものは、紫外線に当たって色が抜けていて、そのぶん味のある仕上がりになったりします。ほかにも、茅ケ崎あたりで拾う海洋ゴミは、長い年月をかけて太平洋から流れ着き、もはやマイクロプラスチックになっている。よくここまでたどり着いたな、ご苦労さん、なんて感じることもあります。

どれくらいの時間をかけて、どこから流れ着いたのか、データがあるわけではないので正確にはわかりませんが、10年ぐらいかけてかけて太平洋をぐるっとまわって戻ってきているものもありそうです。ゴミを目の前にすると、なんだか歴史を感じさせられることがあります。

いつか、buøyのプロダクトや取り組みが「どんなゴミが、何年海を漂って、どの場所に漂着した」とわかる、歴史的な資料になっていったら面白そうですよね。

──今後も海洋ゴミ問題への模索は社会全体で続くと思いますが、そのなかでbuøyはどんな存在になれたらとお考えですか?

最近、シーグラスが手に入らないじゃないですか。もう海岸にほとんど落ちていないんですよね。日常生活で瓶を使う機会が減っているのもあって、高値がついている。だから、マイクロプラスチックもいつか高値がついたらいいな、なんて思っています。

ゴミ拾いをしてくださっている方から「お金が落ちていたらみんな集まってきて拾うでしょ。だからゴミがお金になればいい。そうすれば一瞬でなくなるんだよ」と話をされたことがあります。

だから、私たちがプラスチックを価値あるものに変えて、ゴミさえも地域の資源と思ってもらえるようにしていけたらいいですね。それができたら、どんどんゴミが拾われて、最終的になくなってくれるはず。価値あるものと認識されれば、その後プラスチックが捨てられることもなくなりますから。

ゴミが完全になくなれば、私たちのプロダクトの材料もなくなるということ。だから、将来的にはbuøyがなくなることがゴールだと思っています。