ソラミドストア

レモンで切り拓く新しい農業のかたち

毎日食べたくなる、本物のレモンカードを届けたい│AKEMILEMON

瀬戸内のレモンを使った「レモンカード」を始めとする加工品を生み出す「AKEMILEMON」さん。今回は、代表の齋藤明美さんにお話を聞きました。齋藤さんは2020年に鎌倉から広島県尾道市の生口島へと移住し、2021年に「AKEMILEMON」を創業。材料にこだわった、毎日食べたくなるレモンカードを作られています。現在は“レモン農家見習い”として、ご自身も少しずつレモンを育て始めているところなのだそう。ブランド立ち上げの経緯や、製品づくりへのこだわりについて伺いました。


2020年、鎌倉から尾道へ

──AKEMILEMONのブランドを立ち上げるまでの経緯を教えていただけますか?

尾道に移住する前は、鎌倉でオーガニックレストランをしていたんです。でも、コロナが拡大して自粛生活が始まると、お客さんも来られなくなってしまって、しばらく休業していました。

そんなとき、たまたま友人が「全国の耕作放棄地を0にしよう」というミッションを掲げた農業のスクールを企画しているのを知って、参加してみることにしたんです。

もともとレストランをやっているときに、農家さんから直接お野菜を買わせていただいていたのもあって、農業に興味はありました。でもそのころは、自分でやるのはちょっと無理だよね、とも思っていました。

講座では「目指せ0.5ヘクタールで年商1000万」というフレーズを掲げていて。0.5ヘクタールってかなり小さいので、どういうこと?って思いましたね。逆に0.5ヘクタールでそれだけのお金を生むことが可能であれば、例えば自分ひとり食べていけるぐらいの収入にはなるんじゃないかなって。それで興味を持って、受けてみることにしました。

入ってみたら、農家さんたちが「そこまで言っちゃっていいの!?」みたいなことも教えてくれるし、十人農家さんがいれば十通りのやり方があるので、スタイルもいろいろだし。もう情報量がすごすぎて、毎回みんな大興奮。農家さん以外にも、マーケティングをされている方のお話を聞く機会もあったりして。

お話を聞かせてくれるのは、みなさん成功されている方だったのもあって、とにかく「希望しかないな」って感じでした。

──話を聞くうちに、少しずつ自分でもやってみたいという思いが膨らんでいったんですね。

そうですね。ただ、講座が終わるころにも具体的なことは何も決めていなくて。その後、「暖かいところがいいなぁ」「腰が悪いので畑や田んぼは厳しそうだけど、果樹ならできるかもしれない」なんてあれこれ考えましたね。

でも、プロの農家さんが何年も試行錯誤してやられてきた果物に勝つのは難しいじゃないですか。そこで、加工品にするっていうアイディアが出てくるんです。農作物をたくさん作れなくても、加工する分だけ作ったら単価も上がる、というのは講座でも教わっていましたし。私は加工品にして、生業としてやっていこう、と。

──「レモン」になったのは、どうしてだったんですか?

レモンが好きなんですよね。
私が子どものころは、レモンティーとかってまだメジャーじゃなくて。小学生のとき、お友だちのおうちに行って、レモンのスライスを浮かべたレモンティーが出てきたのに衝撃を受けたんです。「このおしゃれな飲みものはなんだ!」って。

それに、父は喫茶店が好きな人で。一緒に連れて行ってもらうと、コーラやトマトジュースにレモンの輪切りが入っているんです。あれもすごく好きで。

爽やかな酸味もちろんですけど、あの輪切りにしたときの可愛さや、子どものころワクワクした気持ちもあって、レモンが好きなんです。お料理にも使いやすいですし、レストラン時代にもよく使っていましたね。

──尾道に移住されることになったのはどうしてだったのでしょう?

先ほどのスクールを企画した友人が、広島出身で。レモンといったら尾道、ということで、尾道の友だちを紹介してもらえることになったんです。

その後はありがたいことに、ご縁に助けられてトントン拍子で住む場所も見つかって。鎌倉のお店を閉めて、2020年の9月に尾道の生口島に引っ越しました。

島暮らし、いいですよ。島の皆さん、本当に優しいんです。農業に携わっている人が多いからなのかもしれないですけど。自然のなかで、自分の手じゃどうにもならないことを相手にしているからか、芯がすごく強いというか、動じない人たちばかりで。本当に、安心して暮らさせてもらっていますね。

──今は、齋藤さんご自身でレモンを作りながら商品を展開されているんですか?

まだまだ、試験的に何本が植えただけですね。で、そこの畑の土壌が良ければ、これから少しずつ本数を増やしていこうかなと考えているところです。だから今は、農家さんからレモンを買わせていただきながら、商品開発と加工品の製造をしています。

柑橘って、木を植えてから収穫できるようになるまで5年ぐらいはかかるんですよ。新規就農者の数と同じぐらい辞めていく人がいるっていうのは、収穫ができるようになるまでの生活が難しいからって言うところだと思います。

なので、私の場合は先に6次化して収入を得ながら、ゆっくり就農していこうかなという感じです。

事業として軌道に乗ったころに、ちゃんと収穫できるようになったらいいなぁ、と。そしたら自分のレモンで加工品も作れるようになりますし、そのときには販売手段の出口ができているわけなので、商売の幅も広がるんじゃないかなって。

材料にこだわり抜いた、毎日食べたくなる味

──最初に商品化されたのがレモンカードとのことですが、いろいろな加工品があるなかでもレモンカードにしようと決めたのはどうしてだったのでしょうか?

毎日食べてもらえるものがいいな、と思ったんですよね。それで、パンに塗るものがいいんじゃないかと。

ジャムでもよかったんですけど、食品メーカーさんが出す商品で市場ができあがっているのもあって、最初から勝負するのは難しそうということで。

それと、私自身がレモンカードの味が好きだったというのも大きいですね。レモンカードって何? ってよく聞かれるのですが、レモンタルトの中身の味を想像してもらえたらと思います。

あの味って、だいたいみんな好きじゃないですか。ちょっと甘くて酸っぱくて、香りもいい。新しさもあって、興味を持ってもらいやすいかも、と思って、レモンカードにしました。

──AKEMILEMONのレモンカードの一押しポイントは、どんなところだと思いますか?

たぶん、世界一高いんですけど、世界一おいしい自信はあります。

私のレモンカードは完全無添加なので、材料が砂糖、バター、卵、レモンの4つだけ。とてもシンプルなんです。だからこそ、材料へのこだわりが物を言います。

レモンは瀬戸内の無農薬のもの、砂糖は喜界島のキビ糖、卵は瀬戸内の自然の中で育った平飼い卵を使用しています。そして、なかでも鍵になっているのがバターですね。

いろいろな材料を取り寄せて試作をしているとき、キビ糖を買わせてもらってるオーガニック食材の会社の方が、「バターでオーガニック認証をとるのが、いちばんハードル高いよね」みたいなことをぽろっとおっしゃったんです。

「そういえばオーガニックの国産バターってあるのかな」と思って調べてみたら、見つけちゃったんですよ。それが北海道のせたな町というところにある、小さな牧場で作られるオーガニックバター。

正直、お値段はびっくりするぐらい高いです。でも、牧草から有機にこだわって、オーガニック認証をとるために、おそらくものすごく年月と手間ひまがかかっていて……それだけ希少なものと考えると、当たり前ですよね。

それでどうしても試してみたいと思って取り寄せさせていただいたら、びっくりするぐらいおいしくて。

普通、バターってコクを出すために使うことが多いと思うんですけど、このオーガニックバターはそういうのじゃないんですよね。クセがなくてさらっとしている。そのおかげで、レモンの香りを邪魔しないんです。

でも、商品としての価格も高くなってしまうので、しばらく理想と現実を行ったり来たりしながら悩んだんですけど……やっぱり一度知ると、もうほかのバターには戻れなかったんですよね。「どうせ作るんだったら、おいしくなきゃ意味がないし!」と、もう半分意地での商品化でした。

さっぱりとした甘さが魅力のレモンカードはお料理との相性もバツグン。AKEMILEMONのサイトでは、レモンカードの活用レシピも多数掲載されています。

──もうすぐブランド誕生から1年を迎えますが、手ごたえはいかがですか?

価格が高いので、正直、卸先さまにも苦労をかけてしまっていると思うのですが……でも、イベントに出展して、直接説明すると買ってもらえるんですよね。試食があると、さらに買っていただきやすくなります。

やっぱり、まずはおいしさと、値段の理由を知ってもらうことが大切なんだなと思いますね。

海外でくらしていて、日常的にレモンカードを楽しんでこられたお客さまから「こんなにおいしいレモンカード滅多にないよ」と言ってもらえたこともあって。自分が食べたいと思う味を突き詰めてこだわったものなので、味を褒めていただけると本当にうれしいです。

──今後AKEMILEMONのブランドとして、やってみたいことや目標はありますか?

いつか、ヒット商品を作りたいですね。お菓子みたいなものが多くの方に手にとっていただきやすいと思うので、レモンカードを使ったお菓子製品作りにはチャレンジしていこうかなと思っています。

農業的な面でいうと……レモンの木は少しずつ増やしていけたらいいですね。でも、レモンの木って成長したらかなりの数の実が取れるんですよ。だから、いま私がやろうとしている加工品の規模だったら、15本もあったら充分なんじゃないかなぁ。

なので、私が自分でできるだけの量で、自分で加工してさらにビジネスを軌道に乗せていくことで、今後若い人たちがレモン作りに挑戦してくれたら面白いなと思いますね。このあたりでも柑橘類の畑は、高齢化でできなくなってしまうところがどんどん出てきているんです。

だから私の活動を通じて、ちょっと面白いなあと思ってもらって。瀬戸内に、どんどんレモンの畑が増えていったら嬉しいなあと思っています!