
わたしたちの商品から、環境問題を自分ごとにして欲しい|株式会社艶金
アパレル業界は“世界2番目の環境汚染産業”らしい。そう知ったのは、今回の取材の後でした。衣料品を作るには大きな環境負荷がかかる。その事実のなか、業界の先頭で環境問題に取り組み続ける企業があります。それは、岐阜県大垣にある株式会社艶金(つやきん)。
今回は、墨勇志(すみゆうじ)社長にインタビューし、会社として大切にしてきたこと、環境問題への取り組みを熱く語っていただきました。この記事を通して、少しだけでも環境問題が自分ごとになったら嬉しいです。
偶然から始まった、環境問題への取り組み

艶金の歴史は、およそ130年前、1889年にまで遡ります。江戸から明治になって、綿織物の需要が増えた背景から、糸を作る会社、生地を織る会社、生地を染める会社が多く立ち上がったそう。艶金もそのひとつ。染色加工業を生業として、愛知県一宮市で創業されました。
その後、拠点を岐阜県の大垣に移しながら、染色加工一筋を貫き通した艶金。1987年には、現在のさまざまな活動の原点となる出来事がありました。バイオマスボイラー燃料への転換による、カーボンニュートラルの実現です。
カーボンニュートラルとは、排出される二酸化炭素の量と、吸収される二酸化炭素の量が均衡している状態。二酸化炭素を吸収してきた廃木材を燃料として使うことで、環境への負担を減らすことができることを指しています。
「きっかけは、経営上の問題だったんですけどね。従来のボイラーで使っていた重油の値段が乱高下していて、使い続けるリスクが高かった。どうにかできないかと思って、代替案としてあがったのが、廃木材を燃料に使ったボイラーだったんです」

最初から環境への問題意識があったわけじゃない、と正直に語ってくださった墨社長。しかし、偶然にも実現されたカーボンニュートラルによって、艶金の行動指針が決まっていくことになります。
大量生産に大量消費……わたしたちにできることはなんだろう
艶金の活動をさらに後押しすることとなったのが、墨社長の感じているアパレル業界への課題感でした。
「現在、日本に流通している衣料品のほとんどは海外製です。安くて豊富な種類が、簡単に手に入るようになりました。その一方で、生産量と消費量の差が大きくなってきてしまったんです。大量生産して、売れ残っても仕方がないという風潮が高まってきた。その結果、大量廃棄が当たり前になってしまいました」
必要以上に衣料品を作っては、廃棄する。つまりは、エネルギーを余分に使っているということ。
そもそも衣料品を作るには、膨大なエネルギーが必要になるんだそう。その分、環境への負荷も大きくなる。地球のことを考えたら、必要な分だけ作る形をとるべきです。けれど、実際はその真逆になっている。
墨社長は、その現状をどうにかしたいと思ったものの、艶金は染色加工会社。糸を作る会社や、生地を織る会社がいて初めて、衣料品を作ることができる。自分たちだけで実施できる、環境問題への取り組みはあるのだろうか。
そう悩んでいたなかで出会ったのが、「のこり染」という手法でした。
試行錯誤で辿り着いた、環境問題への一手「KURAKIN」

出会いは、またしても偶然から。きっかけは、岐阜県内のピーナッツ加工会社が、廃棄するピーナッツの渋皮の活用方法を模索していたこと。渋皮にはポリフェノールが含まれる。その養分の利用法を探しているなかで、染め物としての利用にたどりついたんだそうです。
「渋皮を入れて、煮沸して、ガーゼを入れてみたら、それは綺麗なクリーム色になったんです。これはいけるんじゃないかと思いましたね。本来は捨てるはずだったものを、染色剤として再利用する。このコンセプトは、環境問題への取り組みとしても最適なんじゃないかと」
可能性を見出してからは、試行錯誤の連続です。ただ染色しても、すぐに色落ちしてしまう。さらには、染めるたびに色が少しずつ変わってしまう。商品化するためには、乗り越えないといけない壁が多くありました。
色の種類の問題もあります。クリーム色の一色だと、商品として売り出せない。他の色も使いたいけれど、食品業者へのツテなんてない。飛び込みで電話して、協力してくれる食品業者を探したことも。
1年間。さまざまな試行錯誤のすえ、ついに商品化に成功しました。それが、のこり染ブランド「KURAKIN」です。

「ひと目見ただけでは、廃棄されるものを使った商品だとは想像できません。けれど、その裏には環境問題にまつわるストーリーが流れています。手にとってくださった方が、そのストーリーを知ることで、衣料品の生産にまつわる課題へ、思いを馳せるきっかけになるかもしれませんよね」
染色加工業者である自分たちに出来ることはなんだろう。そう悩んでいた墨社長が辿り着いた、「のこり染」というひとつの答え。
「わたしたちが簡単に手にとって捨ててしまう衣料品には、膨大なエネルギーが使われている。その事実を知るだけで、わたしたちの消費行動も変わるはずなんです。『KURAKIN』が、その変化の一歩目になって欲しいですね」
どんな衣料品でも、同じ人間が作っている
バイオマス燃料ボイラーから始まり、「KURAKIN」へと繋がった環境への意識。その意識は、会社としてのあり方にも影響を与え始めました。
象徴的なものとして挙げられるのが、2019年に墨社長が掲げた「脱炭素経営宣言」です。これは、2030年までに、二酸化炭素の排出量を20%減らす(2017年比)というもの。アパレル業界のなかで、脱炭素を掲げる企業は滅多にないんだとか。
「アパレル業界として、大量生産が当たり前になってしまっていますから。でも、周りと同じように乗っかっているだけじゃ、なにも変わらない。私たちが旗振り役にならないと」
加えて、墨社長が語ってくれたのは、アパレル業界の大量生産の裏にある過酷な労働環境でした。
「安価な値段での衣料品の大量生産を可能にしているのは、海外での労働力搾取があることも大きいんです。環境負荷だけでなく、人への負担も大きくなってきている。大量生産はたしかに便利です。自分の好みの服がすぐ見つかりますからね。けれど、その裏に大きな犠牲があることを忘れてはいけないと思います」
とはいえ、衣料品の裏にあるそんな事実なんて想像しにくいですよね、と話す墨社長。だからこそ、自分たちのやる意義があるんだそう。
「わたしたちの工場を公開することで、『洋服の色をつけるってこういう仕事なんだよ』って伝えることができると思うんです。一部を伝えることができれば、『どうやって服って作られているんだろう?』って興味を持つひとつのきっかけになりますよね。わたしたちの商品も同じ。入り口は小さくても、そこから大きな問題を考えてもらえたら嬉しいです」

どんな衣料品でも、自分たちと同じ人間が関わって作っている。それを知ってもらいたい。そして、手にしたものに思いを馳せて欲しい。
取材にて語っていただいた、墨社長が抱く問題意識。正直、僕は知らないことだらけでした。衣料品を作るのに莫大なエネルギーが必要なことも、大量廃棄が問題になっていることも。
大きな問題をお聞きして、僕はどうしたらいいんだろう……と困惑していたのですが、「まずは知ることが大事」という墨社長の言葉を思い出しました。
問題を知ることで、行動は変わる。行動が変われば、小さくても社会は変わる。きっと、その小さな変化を積み重ねるしかないんだと思います。
艶金で取り扱う商品は、どれもその変化を生み出すきっかけになる。ぜひみなさんも、商品を手に取ることから、一歩目を始めてみてください。