
土佐から世界に
高知・四万十で愛される食文化に、新しい楽しみをプラス│しまんと百笑かんぱに
日本最後の清流と呼ばれる四万十川が流れる緑豊かな地で、地域の食文化を新しい価値観で創造し、県内外・国内外へと届けるしまんと百笑(どめき)かんぱに株式会社。昔から地元で愛されてきた食文化に新しい楽しみ方をプラスし、ほとんどの商品の企画・製造・販売まで一貫して自社で行なっています。今回は代表の細木紫朗(ほそぎ しろう)さんにインタビューを行い、会社設立の経緯や商品づくりに込めるこだわり、地元の食文化に対する思いを聞きました。
地元のおいしいものを、広く届けるために
地元・高知県四万十市出身の細木さんは、もともとデザイナーをされていました。印刷会社に所属し、主にパンフレットやポスターのデザインに携わっていたそうです。
そして印刷会社時代に、お仕事の一貫として地元のフリーペーパーの制作に関わることになったのが、しまんと百笑かんぱに誕生の原点になったのでした。

「いろいろな地元の“食”を集めて紹介するフリーペーパーでした。一応、私はデザイナーという肩書でしたが、田舎なので、全部やらなくちゃいけなくて(笑)。営業も、写真の撮影も、誌面の校正も自分でやっていましたね。そうやって何年か続けるうちに、掲載する商品の幅も、関わる生産者さんたちの輪も広がっていき、ついには『細木さんが商品を売ってくれたらいいのに』という声をもらうようになったんです。それで、食を届ける仕事をやってみようかと考えるようになりました」
とはいえ、それまで食品業界はまったくの未経験だったという細木さん。
関わる人々から背中を押されたとはいえ、「自分で食品を企画・販売しよう」という思いに至った理由を聞いてみると、
「デザイナーとしてプロダクトデザインの依頼を受けても、ものを作り終えたらそれ以降はなかなか携わることがないんですよね。だから、実際にものが売れるところが見えてこない。長いことデザインをやってきたなかで、そんなところにもどかしさを感じていました。『どうしたら売れるのか、どうやって売れていくのかを知らないまま商品のデザインをしても、それはニセモノなんじゃないか』と。だから、自分で1から商品づくりに携わってみたいという思いは、自然と膨らんでいたように思います」
そして同じ時期に、自治体主導の6次産業化プロジェクトに携わることになり、地域の食に対する興味と理解がさらに深まったそう。
「地元のおいしいものを広く届けるために、何をどうやって加工して、いくらで、どんなコンセプトでどこに売るか……と、1から商品を企画し、販売に至るまでのプロセスに間近で関わらせてもらいました。この経験も、しまんと百笑かんぱに設立の後押しになりましたね」
その後、しまんと百笑かんぱにの前身となるプロジェクトがスタート。
当初は印刷会社の中に「食品開発部」のような事業部をつくり、取り組みを開始したのだとか。

すべて細木さん一人で商品の企画から原料の生産者さんたちとのやりとりなども行い、「当時はあんまり記憶がないくらいバタバタと、忙しかったです」というほど。
デザイナー時代にフリーペーパーやパンフレット制作に携わったことで生まれた、地元の“食”に関わる人たちとのつながりを活かし、その後少しずつオリジナル商品が生まれていきます。
そして展示会などにも参加するようになり、興味を持ってくれる人、商品を扱いたいと問い合わせをくれる人も増加。
ついには「印刷屋さんの一事業部」としての仕事には収まらなくなり、しまんと百笑かんぱに株式会社の設立に至りました。
地域の食文化に新しい楽しみをプラス
現在、しまんと百笑かんぱにでは、商品の企画・製造・販売まで一貫して自社で行なっています。(一部商品は生産者さんのもとで製造されているものもあり)
土佐で昔から愛されてきた味に、新しい魅力や楽しみ方をプラスした商品の数々。県内外を問わず、じわじわと注目が高まっているところです。コロナ禍以前は、アジア圏など海外にも積極的にイベント出店し、人気を集めました。


地元の味を、オリジナリティあふれるかたちで商品に落とし込む細木さん。大切にされているのは、「忘れられてしまった食文化を取り戻したい」という思いだといいます。
「地域の文化や歴史に根ざした食っていうのが、日本各地にはあるはずなんです。それがだんだん、どこの地域も忘れられてきてしまっていると感じます。だから私は、四万十で大切にされてきた食文化を、今の生活にマッチする形で届けたいんです」
そしてもうひとつ大切にされているのが、フェアトレードであること。
「生産者の皆さんに対して、なるべく値切り交渉をしないようにしています。近年、食品業界では原料の価格がどんどん下がっていますが、私たちは地元のおいしいものに、ちゃんとした対価を払いたいんです。そうしなければ、地域に根ざした食文化も、続いていきませんから」

しまんと百笑かんぱにが生み出すユニークな商品の数々は、細木さんの「世の中にないものをつくりたい」というポリシーから生まれます。
洗練された雰囲気のパッケージデザインにも、細木さんのデザイナー視点でのこだわりがこめられているそうです。
「私たちの商品は調味料が主なので、キッチンや食卓にも気兼ねなく置いていただけるように。生活の中に溶け込むデザインを目指しています。私たちの商品が、一緒に食事をする人同士のコミュニケーションツールにもなってくれたらうれしいです。食卓に置いてある調味料をきっかけに『これなに?』なんて、会話が広がっていけばいいですよね」

関わる人たちが笑顔になるように
最後に、細木さんに高知の食の魅力や可能性について聞いてみました。
「高知には、カツオやしょうが、文旦などさまざまな名産品があるほか、四万十川では日本でも数少ない天然のウナギや鮎、テナガエビなどが獲れ、いずれもすばらしい味や食感を楽しむことができます。でも、おいしく新鮮なものが手に入るからこそ、加工品が少ないんです。高知では、手を加えず、素材そのままを味わうのが主流なんですよね。だからこそ、鮮度や日持ちなどの関係もあって、地元で愛される味を広く県外に届けることがなかなかされてこなかった面もあると感じています」

「それで私たちは、素材の味を大切にしながらも、より広く、遠くのみなさんにも地元の味を届けられる商品を増やしていきたいと思っています。なるべく添加物を使わず、原料生産のバックグラウンドなどがきちんと見えることも、今後も大切にしていきたいです。それで地元の生産者さんたちに、少しずつでも何か還元していけたら。あとは私の行動を見て、若い人たちが地元の食文化に興味を持ってくれたり、何かアクションを起こしてくれるようになったら面白いですね」
“しまんと百笑かんぱに”の“百笑(どめき)”という言葉には、「百人の人々が笑うとどよめきになる」という由来があるのだとか。四万十市には、中村百笑町(なかむらどうめきちょう)という地名もあるそうです。
しまんと百笑かんぱにが大切にする、「地域とともに、関わるすべての人が笑顔になるような仕事を」というコンセプトと結び付けられた社名なのです。
地元の食文化を大切に受け継ぎ、なおかつ現代の価値観をプラスして新しい楽しみ方を提案する細木さんたち。
地元で豊かな食の生産に携わる人々から、おいしくユニークな商品の数々を楽しむ人々まで。関わる人たちが笑顔になるような商品の展開が、今後も楽しみです。